法学部ってどんなところ?「物流関係法を学ぼう」
〜物流関係法を学ぼう〜
皆さんこんにちは、前回の「法学部ってどんなところ?」では、流通経済大学の法学部で学ぶことのできる特色ある科目として「金融取引法」を紹介しましたが、流経大の法学部で学べる特色ある科目は他にもたくさん存在します。そこで今回はその中から「物流関係法」という科目について、講義を担当されている大西先生にお話を聞くことにしました。「物流」に関係する法というのは一体どのようなものなのか、具体的にお話を聞いていきたいと思います。
〈教員紹介〉
大西 徳二郎:法学部ビジネス法学科准教授
早稲田大学大学院法学研究科を経て本学へ着任
専門:商法(運送・海商関係)・国際私法(海事国際私法)
―――大西先生、本日はよろしくお願いいたします。早速ですが「物流関係法」とは、どういった法律なのか教えていただけますか?
大西:こちらこそよろしくお願いします。実は、「物流関係法」は、法律の名前ではありません。流通経済大学法学部に設置されている科目の名称で、文字どおり、物流に関係する法律を幅広く学んでいく科目になります。
―――流経大の法学部に特有の科目だということですか?
大西:他の大学に同様の科目がないとまでは言いませんが、「物流関係法」という名称で、かつ、物流に関係する法律を幅広く扱う科目を設置する大学は珍しく、物流に縁が深い流通経済大学らしい科目といえます。
―――ありがとうございます。では改めてお伺いしますが、「物流関係法」では、具体的にどんなことを学ぶのですか?
大西:私たちは、日常生活の中で、道路をトラックが走っているのをよく見かけますし、街中でトラックが荷物の積卸しをしている光景にもよく出くわします。そのため、物流というと、トラックで荷物を運ぶことをイメージする人が多いと思います。
―――確かに物流というとそういうイメージですが、間違っているのでしょうか?
大西:もちろん、そのイメージは間違いではなく、トラックで荷物を運ぶことも物流です。ただし、トラックによる陸上の運送はあくまで物流の一翼であって、「物流=トラックでの運送」では必ずしもありません。
―――これ以外にも色々な物流があるということですか?
大西:そういうことです。私たちは普段、直接その光景を目にすることはあまりありませんが、多くの荷物が船を使って海上を運ばれ、また、飛行機を使って空を運ばれています。これらも物流ですし、大きな倉庫で荷物を保管することも物流です。
―――なるほど、今まであまり意識していませんでしたが、色々な形の物流があるのですね。
大西:はい。そのため、「物流関係法」では、陸・海・空の運送に関わる法律や倉庫の営業に関わる法律などを広く学びます。
―――授業ではそれらのすべてを学ぶことができるのでしょうか?
大西:大変申し訳ないのですが、大学では授業の回数が限られていることから、どうしてもすべての法律を万遍なく扱うことはできません。そのため、中でも特に、海上運送に関わる法制である「海商法」を中心に学んでいきます。ちなみに、この「海商法」ですが、これも法律の名前ではなく、海上運送に関わる法分野の名前です。
―――どうして、物流の中でも海上運送に関わる法分野である「海商法」を中心に学ぶのでしょうか?
大西:理由は大きく2つあります。まず、1つ目の理由は、私たちが住んでいる日本が四方を海に囲まれているからです。
―――日本のような島国では「海商法」が重要だということですか?
大西:はい。日本と外国が陸続きではない以上、日本が外国との間で物のやりとりをするには船か飛行機を使うしかありません。しかし、飛行機では多くの物を一度に運ぶことはできません。つまり、日本から外国へ、また外国から日本へ大量に物を運ぶには船に頼らざるを得ず、日本における国際物流の主役は海上運送だからです。
―――なるほど。それは確かにその通りですね。
大西:私たちは日常生活の中で多くの外国製品を使用していますが、そのほとんどが船によって日本に運ばれてきています。普段意識することはなくても、私たちの生活は、実は海上運送によって支えらえています。
―――だからこそ、「海商法」を学ぶことが大切になるということですね。
大西:そうです。次に、「海商法」を中心に学ぶ2つ目の理由ですが、「海商法」の歴史はとても古く、海洋という大自然と闘いながら海上運送を発展させてきた人類の長年の知恵が詰まっているからです。
―――それはどういうことでしょうか?
大西:考えてみてください。航空運送を担う飛行機ですが、飛行機は誕生してからまだ1世紀と少しくらいしか経っていません。同様に、現代の陸上運送を担う自動車や鉄道も、決して歴史が古いわけではありません。それに対し、船による海上運送は古代から行われてきました。
―――確かに飛行機や自動車、鉄道と比べると船の歴史は長そうですね。
大西:はい。また、海上は、波が荒れ、強い風が吹き、どうしても陸上より危険です。そのうえ、船は一度に多くの荷物を運ぶことができるため、事故に遭い船と荷物が海に沈んでしまうと、陸上での事故とは比較にならないほどの大きな損害が発生します。
―――船に事故が起きたときの損害は想像できないほどのものになりそうですね。
大西:ええ、それでも海上運送を維持・発展させるために、人類は知恵を絞り、法制度の面から危険や損害を克服してきました。それゆえ、海商法には陸上の世界にはない特殊な制度が多くありますし、危険や損害を克服するのに優れた制度であることから、保険や株式会社のように、海上運送の世界から陸に上がり一般化した制度もあります。ただし、株式会社の起源には諸説ありますが。
―――「人類の長年の知恵が詰まっている」というのはそういうことなのですね。
大西:そうなんです。つまり、「海商法」を学ぶことは、海上運送に関する法制度を学ぶにとどまらず、危険や損害を法制度でどう克服していくかを学ぶことでもあるからです。
―――ありがとうございます。最後になりますが、物流企業の志望者でなくても「物流関係法」を学んだ方がよいでしょうか。
大西:物流は、現代の私たちの生活において、インフラです。物流がなければ、お店には商品が何1つ並ばないことになりますし、インターネットショッピングをしても買ったものが自宅に届かないことになります。物流企業の志望者にはもちろん学んで欲しいですが、物流企業の志望者ではなくても、物流は私たちの生活に不可欠なものなので、自分に関係ないと思わず、その法制度にも関心をもって学んで欲しいです。
―――社会に不可欠な制度は学んでおくに越したことはありませんね。
大西:実際に、皆さんも宅配便等で誰かに荷物を送ることがある、つまり、物流の当事者になる場面もあるため、「物流関係法」を学んでおいて損はありません。
―――物流関係法は実践的な学問だということですね。
大西:はい。さらに、先に述べたように、「物流関係法」には物流の枠を超えた、危険や損害を法制度でどう克服していくかという学びもあるので、危険や損害に対する法の役割や人類の知恵を実感することができ、面白さを感じることができるのではないかと思います。
―――大西先生の話を聞いていると、私も今すぐにでも「物流関係法」の授業を履修したくなってきました。大西先生、本日は本当にありがとうございました。