逆さメガネを体験しました
今回は、2年山岸ゼミでの逆さメガネの体験です。
逆さメガネとは、メガネのレンズ部分に仕掛けがあり、外界から目に入ってくる光を屈折させることで、視界が上下逆さに見えたり、左右さかさに見えたりするメガネです。単にこのメガネをかけて少し歩き回ろうとするだけでも楽しい経験ができますが、心理学的にとってとても重要な実験に位置づけられています。
画像1では女の人が右手を挙げています。これはメガネをかけずに見えているとしましょう。目の前の女の人は確かに右手を挙げています。このときに左右反転の逆さメガネをかけると画像2のように見えます。目の前の女の人は右手を挙げているのに、左手を挙げているように見えます。また、自分が握手をしようとして目の前に右手を出すと、左手が視界の左側から出てきたように見えます。メガネをかけていなければ視界の右側から見えるはずでした。ちょっとややこしい世界ですが、ここまではすべてレンズによる光の屈折で説明できます。
しかし、この逆さメガネを長い間かけながら生活していると、だんだん慣れてきて普通に生活ができるようになります。人間の適応力はとても高いですね。変化はそれだけではありません。メガネをかけた当初は画像1の人が目の前に立っていると、画像2のように見えていましたが、時間経過とともに、メガネをかけているのに画像1のように見えてきます。目に入ってくる光は逆さメガネのせいで左右逆転しているのに、あたかもメガネをかけていないかのように見えるわけです。
メガネをかけているのに画像1が画像1のように見えるようになった後、メガネをはずすと私たちの目に外界はどのように見えるでしょうか。メガネをはずしたときに、目の前には画像1の人が立っているのに、画像2のように見えます。逆さメガネをもうかけていないのに、逆さメガネをかけはじめたときと同じ視界が広がります。私たちの目、体、脳はどうなってしまったのでしょうか。
私たちは目を通して、外界を認識します。そして、単に外界をそのまま見えると思っています。しかし、逆さメガネはそんな常識を覆してくれます。私たちの目から見える景色が、身体的な出来事と一致しなくなると、見える景色は身体の出来事に一致するように変化するのです。そのため、メガネをはずしてしばらく時間が経つと、徐々にまた元通りの視界が広がるようになります。
実は私たちの目の奥にある網膜には、私たちの目のレンズ(水晶体)によって、外界は上下逆さに映っています。しかし、私たちの視覚は上下にはなっていません。正確に把握しています。逆さメガネの現象は、網膜に映る景色と私たちの知覚との関係にも関連していそうですね。
私たちはいまいる環境に適応した結果として、そのように見えているわけです。これは、生まれたときから目が見えなかった人が、手術によって目が見えるようになったとき、すぐに私たちと同じような見え方をするようになるのではなく、さまざまな経験によって徐々に見えるようになることとも似ています。視覚と環境への適応はこのように密接にかかわっているのです。