社会学科で学ぶ「みえない関係性」
写真は新松戸で開講している1年生のための科目「社会学概論」の授業風景です。
この授業は、授業名の通り、社会学科の基礎となる「社会学」について、その基本的な考えかたとそこから導かれたいくつかの理論を紹介しています。ここでは、経済学で扱われる「ゲーム理論」に登場する「囚人のジレンマ」を取り上げ、『みえない関係性』をテーマに行った回の授業を紹介します。
その内容は…
わたしたちが完全に自分の利益しか考えない人間だとしたら、どのようにふるまうのか。
しかし、その考えでは説明できないことがあるのではないか。
わたしたちを利己的な行為にむかわないように引き留めているものは何か。
ということで、「すこし変わったジャンケン」の実習
•2人でジャンケンをします。
•このジャンケンには”グー”と”パー”しかありません。
•ジャンケンの結果に応じてポイントが得られます。
•高得点が得られれば、豪華賞品がもらえます。
あなたはグーとパーどちらを出しますか。表を見ると、グーを出したほうがポイントは高くなりそうに思えます。相手がどちらを出したとしても10点は確保できるし、うまくいけば最高の50点が手に入るかもしれません。でも、相手も同じように考えるとしたら、2人ともグーなので2人とも10点になります。
あれ、2人ともパーを出せば2人とも30点もらえたはずで、もっとよかったのに。
このジャンケンは、人びとが自分の利益だけを考えて合理的に行動すると、結果として、人びとにとってあまりよい状態にはならないことがあることを示しています(これはゲーム理論に登場する「囚人のジレンマ」を応用しています)。
でも人間って、このような行動をするのでしょうか。
人間行動の特徴を調べるために、おもに社会心理学で実験研究が行われてきました。その結果、このような状況におかれた人びとには、事前の打ち合わせがなくても、協力してパーを出す傾向があることがわかってきました。
なぜ、人びとは自分の利益だけを考えた行動をしないのでしょう。
これには、いろいろな説明がありえます。有力な要因のひとつが、信頼の存在です。
ところで「信頼」とはなにでしょう。ふだん使っている言葉です。ここでは「信頼」を「相手の行為への確信」と定義することにします。「相手はパーを出す」という確信があれば、わたしもパーを出すことができます。
人びとの間には信頼が満ちていて、人びとの行動に影響を与えている。この授業では、人びとの行動をつなぐ「信頼」を「みえない関係性」と呼んだわけです。「信頼」は、あらゆるところでわたしたちの生活を支えています。たとえば、学校での授業も信頼に支えられているのに気づいていますか。
「先生は役に立つことを教えてくれる」のような確信ではありません。じっさい、わたしたちが教えることは役に立つことばかりではありません。もっと重要な信頼が、学校での授業を支えています。それが無いと授業は成り立ちません。たとえば「となりに座っている生徒は空腹の肉食獣のようなことはしない」という確信です。こうした信頼がなければ、狭い教室に何十人もの生徒が集まれません。
「信頼」はモノとの間にもあります。「目の前の四角い物体は、パソコンとして機能する」のような確信です。
こうした信頼もたまに裏切られることがあります。麦茶の入っているボトルから、コップに注いで飲んだら、そばつゆだった、というようなばあいです。こんなとき、わたしたちは異常にびっくりします。あたりまえで、ほとんど気づかなかった信頼がひっくり返るからです。
社会学科のもっとも基本となる必修科目の一つの「社会学概論」は、わたしたちのふつうの生活がどのような土台のうえに成り立っているのかを考える授業を目指しています。
わたしたちのふつうの生活には、ふつうには気づかれないものがたくさんあります。
そうしたものを見つけ、その働きを考えていくのが、社会学や心理学です。