

本研究は、流通経済大学の教員で組織する「障害者教育問題研究会」のメンバーが中心となって行う研究である。これまでに流通経済大学の研究会では、全国の4年制大学を対象に2度にわたる郵送調査を実施し、障害者の高等教育段階における入学・在籍・卒業などに関して、基礎的な調査報告書を発表してきた。またそこから見えてきた幾つかの問題に関して、それぞれの研究者が共同で、あるいは個別的に分析・研究を続けてきた(例えば、障害者の入学についての意思決定上の問題、障害者の在籍と施設・設備の関連など)。こうした研究経過を経て、障害者の高等教育段階における実態やさまざまな問題について、ある程度の公的な理解を高めることが可能となった。
ところで障害者の高等教育に関わる問題を調査・研究していく過程で、障害をもつ生徒の後期中等教育、すなわち高等学校段階での実態についても、不明な点が多いことが判明した。盲・聾・養護学校に在籍する生徒に関しては、文部省発行の「学校基本調査報告書」などでかなり具体的な数値が上げられているが、それ以外の一般の高等学校については、入学から卒業まで、個々の学校での個別的な対応に終始しているのが実情であるようだ。しかし高等教育機関に進学してくる障害をもつ生徒に関していえば、その多くはいわゆる「統合教育」を受けた生徒、すなわち一般の高等学校を卒業してきた生徒である。そこで本研究では、これまでほとんど注目されてこなかった後期中等教育段階での障害をもつ生徒の実態調査を行い、彼らがどのような形で高等学校に進学・在籍・卒業しているのか、またそこでどのような問題を抱えているのかを明らかにしたいと考えている。そのことは同時に、障害をもつ生徒も、もたない生徒も、ともに地域社会の中であたりまえに暮らしてゆける社会の実現にむけておおいに寄与するものと考えている。
![]()
わが国の高等教育機関といえば、一般には4年制の大学、短大、高等専門学校の4年生と5年生(いわゆる1条学校)であるが、これに学校教育法の改正により専門学校の一部も加わることになった(1975年)。これら四つの高等教育機関には現在、高等学校卒業者のうち5割近くが進学している。
こうした高等教育機関への進学者数の増加を受けて、障害をもつ生徒の高等教育機関への進学者数も、各種の調査によればかなりの増加傾向を示している。しかし、障害をもつ生徒の教育に関して専門的な知識をもつ教員のいる高校・比較的設備の整った高校(盲・聾・養護学校)を卒業してくる生徒の数は少なく、実際には一般の高校を卒業して高等教育機関に進学してくるケースが多い。本研究では、こうした生徒が高校段階でそれぞれの障害に応じてどのように学び、また学校側はどのような対応を図っているのか、入学・在籍・進学についていかなる問題を抱えているのかを明らかにしたいと考えている。そのため全国の高等学校の約半分(層化抽出法で選んだ2,500校)を対象に郵送調査と、一部は訪問調査(障害をもつ生徒の教育で特徴的な学校など)を実施し、障害をもつ生徒の実情を明らかにしたいと考えている。なおこのような調査研究は、これまでほとんど実施されておらず、その意味でも画期的な研究になると確信している。
![]()
流通経済大学の研究会では、これまでに障害者の高等教育に関する調査を2度にわたり実施し、その成果を報告書、学会発表などの形で公表してきたが、その過程で、他の研究機関(早稲田大学の同様な研究者グループなど)と共同し、障害者の高等教育に関する国際会議(平成5年夏、早稲田大学国際会議場で開催した「障害学生の高等教育国際会議」)でも「学内制度」に関する分科会を主催してきた。現在、障害者の高等教育を進めるために、地域のサポート・センターの開設などが考えられているが、こうした傾向を支持・支援するものとして、後期中等教育における障害をもつ生徒の現状解明は不可欠のものとなっている。
また「障害者教育問題研究会」で行った調査研究や所属する学会での研究発表などを通して、研究者たちは関係する大学・機関と信頼関係を築き、情報交換などを積極的に行っている。こうした大学・機関からは、本研究の成果に対して多くの期待も寄せられている。

1.流通経済大学「共同研究費」・平成元年度・「障害者の高等教育に関する調査研究」・研究代表者:大西 哲・研究経費:250千円*流通経済大学における障害者の受け入れ問題を契機に、学内の研究会「障害者教育問題研究会」を設立し、社会学、心理学、調査法、アメリカ研究など専門を異にする研究者が集まって、障害者の高等教育機関における現状を明らかにした。この調査研究から『障害者の高等教育に関する調査研究―第1次報告書』(流通経済大学出版会)が生まれ、ついで「障害者の受け入れ経験から見た受け入れの実際」(天野栄一)「障害者受け入れ仮説と学部の現状」(大西哲)「障害者の受け入れについての大学による意思決定」(佐藤尚人)「障害者の受け入れに関する大学の意思決定システムと意思決定環境についての考察」(都築一治)など、研究参加者がそれぞれ研究成果を発表している。
2.早稲田大学「国際会議開催補助費」・平成5年度・「障害学生の高等教育国際会議」・国際会議実行委員会代表:鈴木陽子・開催補助費:2000千円*早稲田大学の鈴木陽子先生(代表者)を中心にして、障害者・内外の研究者などから、障害者の高等教育に関する国際的な会議を開催したいという気運が高まった。そこで代表者が、長年の国内外の研究機関や研究者との交流経験を生かして、世界で初めての「障害学生の高等教育に関する国際会議」を早稲田大学国際会議場で開催した。会議の参加者を中心として、国際的な障害学生の高等教育機関での実情や課題が紹介され、障害者、研究者、高等教育機関の関係者などが広く交流する契機となった。また文部省関係者の助言を受けて、下記Fの書籍の出版も実現した。流通経済大学の「障害者教育問題研究会」もこの会議に積極的に関わり、「学内制度」に関する分科会を主催し、「大学の直面する課題―国内制度」について研究発表を行った。
3.流通経済大学「共同研究費」・平成5年度・「障害者の高等教育に関する全国調査'93」・研究代表者:天野栄一・研究経費:600千円*前回の調査1.は新聞・雑誌などで広く紹介され、全国の研究者や大学関係者からの問い合わせが続いた。またこの調査結果をもとにして、NHKの教育テレビ番組「明日の福祉」が2回にわたり製作された。しかし調査対象が一部限定されていたり、質問項目に不十分な点も見られたので、その後の状況の変化も受けて、あらたに全国の大学を対象とした調査を実施した。この調査結果は、流通経済大学の論叢で3回にわたって発表し(「障害者の高等教育に関する全国調査'93」T、U、V)、これをもとに「高等教育機関の障害者支援システムの研究」(1994年)「障害学生の在籍が支援体制に及ぼす影響」(1995年)など、いくつかのテーマ別の分析も行った。
4.文部省「科学研究費補助金(研究成果促進費)」・平成8年度・「障害学生の高等教育」・国際会議実行委員会編(代表:鈴木陽子)・研究経費:6000千円*平成5年に開催された「障害学生の高等教育国際会議」での成果を中心に、文部省の助成を受けて、多賀出版より『障害学生の高等教育』(1997年)を出版した。この中で障害別・問題別の視点から、それぞれの会議の分科会が研究成果を刊行し、研究代表者(大西哲)が関わった「学内制度」分科会でも7本の研究成果を発表している。